“運命” 世界で1番嫌いな言葉。 運命なんてものは この世にはない。 運命の出会いなんて、 1つもない。 運命の人なんか どこにもいない。 貴方が見てきたものや、 出会ってきた人は 全て貴方が手繰り寄せた宝物 そんな宝物を 運命なんて曖昧な言葉に閉じ込めないで欲しい 大好きなあの人に出会えたのは 貴方が今まで選んできた全ての選択肢が引き寄せたんだよ 貴方のどうしようもない苦しみに涙を流したあの時や 1人でもがいてきた日々や 孤独で押しつぶされそうな あの夜が 貴方自身の強さになって 貴方に纏う魅力になって そして、 あの人に出会ったんだよ もしも今、 真っ暗な暗闇にいるなら それを運命なんて 言葉で終わらせないで その暗闇から抜け出すことに 意味がある 初めて光に溢れたその瞬間に、 きっと貴方には数え切れないくらいの喜びと、抱えきれないほどの幸せが待ってるの そんなのわからないじゃないかって言われるかもしれない。 でも、100%言い切れる だって、運命なんかないから 運命なんてものがあれば 一生暗闇の中かもしれないし いつか光で溢れるかもしれないし どうなるかなんて 誰にもわからなくなる でも、運命はない だから100%言い切れる その暗闇から、 そのどん底の中から抜け出した時 必ず貴方は幸せになれる 1人で抜け出せないのなら誰かに手を引っ張って貰えばいい 誰もいないのなら 誰かを呼べばいい 苦しいなら、 辛いなら、 小さな声でもいい。 言ってみて欲しい 呼んでみて欲しい 誰かを信じてみてほしい 何よりも、 もっと自分を信じて欲しい 貴方が思ってるよりも 貴方は強い “自分なんて”と思うのは 今日で終わりにして欲しい 貴方は素敵だよ 初めて自分を心から信じられたら、きっと誰かを信じられるようになる 誰かを信じられるのは 自分を信じられる強さを持った人だけだから 貴方のこれからの毎日が 光に溢れますように 素敵な貴方が 毎日笑って過ごせますように 笑える日ばかりじゃないかもしれない 涙が零れる日もあるかもしれない でも、それでも 貴方には笑ってて欲しいって 心の底から思ってるよ #創作 2025/07/07に公開10,600 回視聴 4.67%4209“結婚しました” 幸せそうに笑う女の子。 その横で、 静かに微笑んでいたのは__、 ______ 「なんかさー、どんどん周り結婚していくと焦るよね」 毎週金曜日、夜。 高校の同級生と集まって女子会。 大学の時から、ずっと変わらない私達の大事な時間。 「てかさ」 そのうちの一人が、ジョッキを片手に気まずそうに口を開く。 「めいが知ってるか、分からないんだけど」 「ああ、はるき結婚したね」 被せるように、 口を開いた私。 「…知ってたんだ」 「え?はるき、結婚したの?」 「うん、結婚式の招待状この前来た」 「誰?相手は?」 「知らない。多分、大学の子とかじゃない?」 友達のやり取りを ぼんやりと聞いていた。 はるきから結婚式の招待状が届いていたあの日から、私はずっと胸の奥の方が息苦しかった。 今までどうやって呼吸をしていたのかすら、わからなくなった。 「てか、なんでめいは知ってるの?」 「私も招待状、来てたから」 「え?」 眉間に皺を寄せながら、 友達が顔を歪めた。 「はるきから、めいに?」 「うん」 ありえない、という 顔をする友達を前に 私は表情を崩さないように、 平然を装うように 顔を強ばらせた。 「めい、行くの?」 「予定合えば、ね」 嘘だった。 本当は行くつもりなんて 全くない。 行きたいわけがない。 でも、私が“行かない”を選択した理由を悟られるのはもっと嫌だった。 我ながらプライドが高いなと 呆れてしまう。 でも、これが私で 昔からこんなんで ずっとこうだった。 私だけ、あの頃のまま 進めていなかった。 その日はいつもより 早めにお開きをした。 何となく家に帰りたくなくて 少しだけ遠回りをしていたとき、 「____…めい」 1番会いたくなくて 1番会いたかった人の声がした。 振り返らなくたってわかった。 振り返る必要なんかないくらい、もう何度も思い出していたその声。 私は聞こえないフリをした。 振り返ったら、 全部が崩れてしまうと思った。 プライドも、強がりも、全部。 「めい」 声が近くなる。 歩く速度を速めた。 「めい!」 「_____なに?」 腕を強く引かれると 視界には、 はるきがいた。 「なんで無視したの」 「聞こえなかった」 「嘘だ」 「嘘じゃない」 昔から、そうだった。 強がる私を 強引に引っ張ってくるはるき。 だからはるきの前だけは、 そういうの全部忘れて ありのままで笑ってられた。 はるきは全部、わかってくれていた。 はるきを置いて早歩きで歩く私に、 余裕そうな顔でゆっくりと歩き出して 私の隣にはるきが並んだ。 「ねえ、元気?」 そして私の目の前に、はるきが立った。 足が止まる。 「…元気だけど何」 突然おでこに走った痛み。 「いった、」 視界を上げると 眉をしかめて私を見ているはるきの顔。 「相変わらずだな、お前は」 「はぁ?」 今度は私より前を歩き出すはるき。 急いで、 追いかけるように私も横に並ぶ。 「どう見ても元気には見えないけど」 「はるきのせいかもね」 横から視線を感じた。 でも、私は真っ直ぐ前を見る。 「なんで」 「あんな手紙、私、見たくなかったよ」 脳裏に浮かぶ 幸せそうな女の子と、はるき。 あの日からずっと あの写真が頭にこびりついて離れない。 「見たくなかった」 横を向くと、 確かにはるきと視線が重なる。 いつもうるさいはるきは、 何も言わない。 「あの写真見てから私、息が苦しい」 秋の風が、 静かに吹く。 はるきの髪が揺れた。 「全部もう、投げ出したくなった。もう、やめたくなった。はるきの横にいれないなら、何の意味もない気がした」 「めいさ」 俯いたはるきの表情は 暗くてわからない。 「………いや、なんもない。めいもさ、早く自分の幸せ見つけなよ」 「何それ」 「めいには笑っていて欲しいから」 「聞きたくない。そんなの。」 「…めい、今、幸せ?」 「幸せに見えるの?」 「めいが幸せじゃないと、俺も幸せになれないよ」 「じゃあ幸せにしてよ、はるきが」 ふわっ、と顔を上げたはるきは 眉を下げて困ったように笑ってた。 私はそれでも良かった。 私の手の届かない場所で 幸せそうに笑うはるきより、 私の傍で、 私の言葉で 困ったように笑うはるきを見たかった。 「もう、行くね俺。久しぶりに会えてよかった。_______いや、会わなきゃよかったな」 そう言って 困ったように笑いながらはるきは 夜の街へ消えていった。 また私は、息ができなかった。2025/05/29に公開100,000 回視聴 2.43%2,2168雨の日に出会った。 傘もささずに ただただ雨を眺めていた彼。 何故かその姿がやけに気になって私は思わず声をかけた。 今思えば、 きっと私は一目惚れをしたんだと思う。 人とは違うオーラを纏って いつも俯瞰していて やけに大人びた彼に、きっと私は恋をしていたんだと思う。 通り雨みたいに 過ぎ去った恋だったけど それでも確かに、好きだった。 あの日は、 いつもの場所じゃなかった。 彼の方から 会いたいって言ってきた。 「今日、元気ないね?」 顔を合わせた途端、 いつもとは少し違う表情に違和感を持った私は思わずそう聞いた。 彼は、ちょっとだけ 間を置いて答える。 「別に。元気ないように見える?」 「うん。めちゃくちゃ分かりやすいよ?」 そう言って笑っても 彼は笑わなかった。 「じゃあ、見なくていいよ」 「え?」 「そうやって何でも見透かしたみたいに言われると、ちょっと疲れる」 私は一瞬、言葉を失った。 思わず口を開きかけたけど、 何も出てこない。 「……ごめん、そんなつもりじゃなくて」 「分かってる。でもさ、なんか君って“大丈夫?”って聞きながら、心の中じゃ“分かってるよ”って言ってるように見える時あるんだよ」 その言葉と、少し目を伏せて眉を下げて笑う姿に胸がぎゅっと締めつけられる。 「……そっか。そう見えるんだ」 「うん。多分それってすごく優しいんだけど。なんか、息詰まる時もある」 彼の声は、 ただ正直で、ただ繊細だった。 ゆっくり手に持っていた 缶コーヒーを置く。 ふたりの間に、 沈黙が落ちる。 夜の風が、 ほんの少し冷たかった。 「もっと知りたくて、もっと分かりたかったんだよね。分かろうとして、間違えちゃうのやだね」 私がぽつりとこぼすと 彼が初めて、少し笑った。 「今日はもう、分からなくていいや」 「え?」 「何も分かんないまま、ただ横にいてみるのってありだと思う」 「……なんか難しいけど、でも、ちょっと楽かも」 そう言って、 私たちは並んで座った。 何も話さず、夜の空を見上げて。 分かりたいけど分かれない。 でも、それでも離れたくない。 そんな夜があっても、 いいんだと思えた。 言葉が届かない夜でも、 隣にいられるなら。 気づいてた。 最近彼の返信が、 ほんの少しだけ 優しくなっていたこと。 ほんの少しだけ 長くなっていたこと。 会うときに、目がよく合うようになったこと。 私も同じだった。 彼に会う日は、何を着ようか迷う時間が増えた。 コンビニで彼が好きそうなお菓子を見つけると、 つい買ってしまう自分がいた。 それでも言葉にはしなかった。 言葉にしたら、 壊れそうだったから。 そしてある夜。 静かなカフェ。 閉店前の静けさが、 2人の会話の隙間を埋めていた。 「最近さ」 彼がぽつりと口を開く。 「こうやって夜会って、何気ないこと話して、一緒にいて楽しいなって思うこと多くなった」 心臓が、小さく音を立てる。 「……うん、私も」 「でもさ」 彼は一瞬、カップを見つめてから私を見た。 「これ以上近づいたら、どっちかが傷つく気がしてんだよね」 「なんでそう思うの?」 「わかんない。ただ俺、今の距離がちょうどいいのかもって思っちゃってる。変に期待しないし、されないし。楽なんだよ」 私は何も言えないまま、 空になったグラスを見ていた。 「このまま“好きになっちゃう”のが分かるから、怖いんだろうな」 ゆっくり視線を上げれば、 また彼は少しだけ目を伏せて眉を下げて笑ってて その顔に、 ぎゅっと掴まれたように 胸が苦しくなる。 「うん、私も。好きになったら、終わりがある気がする」 だから。 「……会うの、やめよっか」 少しだけ、声が掠れる。 きっと、この言葉を 望んでいたんだよね。 彼は、 少しだけ安堵したような でも戸惑っているような表情を浮かべる。 「……うん」 少しの間を置いた後、 彼が静かに頷く。 そして、私は無理矢理笑顔を浮かべる。 2人とも笑ってた。 寂しいくせに、 笑ってた。 カフェを出たあと、 最後の駅までの道。 言葉は交わさなかったけど、 歩幅は自然と揃ってた。 駅の改札前で、 ふっと振り返る。 「ほんとはね、貴方のこともっと知りたかった」 「俺も。…もうちょっとだけ、話したかった」 静かに夜風が吹いた。 「でも、ありがとう。出会ってくれて」 「うん。こっちこそ」 そう言って、 彼は改札を抜けた。 私はその背中を しばらく見送っていた。 通り雨が降ったみたいに じんわりと湿っていく私の心。 ほんの一瞬の恋だったけど それでも確かに私たちは、 恋をしていた。 #創作 #短編小説 2025/05/28に公開14,400 回視聴 3.26%4411夜風が優しく吹く、淡い夜。 今日は晴れていた。 彼女の小さな肩が度々触れる。 傘はないけど、 並ぶ距離は自然と近い。 「俺さ、普段初対面の人とこんなに話せない」 「じゃあ私、結構レアってことか!」 「うん、レア。てか変な子だなって思った」 「変な子って!褒めてないでしょ」 肩を揺らして笑う彼女の様子を横目に見ながら、ふと声を潜めた。 「いつもこんな風に笑ってるの?誰とでも」 「ん?どういう意味?」 「いや、なんかいつもテンション高いっていうか。疲れない?」 彼女の足が、一瞬だけ止まる。 その間は、 たった数秒だったけど。 それが妙に長く感じられた。 「あ、ごめん、別に悪い意味じゃなくて」 「ううん、大丈夫」 すぐに歩き出し、いつも通りの調子で笑って言う。 「まーね、たまに寝る前とかに喋りすぎたな〜って思うかもね」 軽く言ってのけたその言葉。 でもさっきの一瞬の静けさと、 そのあとに戻った笑顔。 「無理して笑うの、得意なの?」 俺の言葉に、 彼女は少しだけ目を見開く。 「…なにそれ、こわ」 そう言って笑った声は、 ちょっとだけ掠れていた。 試したつもりだった。 どんな人なのか、 もっと知りたくて。 けど、無意識に誰かの踏み入れてはいけないところに土足で入ったのかもしれない。 「ごめん」 ぼそっと漏れた俺の言葉に、彼女はくるりと振り向いて笑う。 「うん、許す」 「軽いな」 「軽くしなきゃ、心が重くなるでしょ?」 それが多分、彼女のやり方で きっと何度も、 誰かに言われてきたことでちょっとだけ心を痛ませて そのたびに笑って、 冗談にして、 明るく交わして。 なんとなく、 自分の中に渦巻いていた曖昧な感情が鮮明に彩られていく。 “また会いたい”じゃなくて “もう少し知りたい”って気持ち。 その夜、別れ際。 「また、会える?」 俺がそう聞くと、 彼女は少しだけ驚いた顔をして、それからにこっと笑った。 「もちろん。次はアイス買ってもらおうかな!」 その笑顔も、 確かに明るかったけど なんとなく どこか少しだけ、 寂しさが滲んで見えた。 心のどこかで少しずつ動き始めてる気がしてた。 でもそれは 恋の始まりなんかじゃなくて ただ、俺らは終わりに向かっているだけだった。 #創作 #短編小説 2025/05/27に公開8,235 回視聴 4.46%3331真夜中。 人気のない商店街の軒下で、 静かに雨を見ていた。 音を立てて降り続ける大粒の雨。 空は曇り切っていて、時間の感覚もどこか曖昧だった。 フードを深く被り、 顔を隠すようにして立つ俺の横に 軽やかな足音が近づく。 「あれ?もしかして、傘忘れちゃいました?」 唐突にかけられた声に、 ゆっくり顔を上げると 傘を片手に持った女性が、眩しいくらいの笑顔で俺を見ていた。 雨なのに。 夜なのに。 そんなの吹き飛ばしてしまうくらい彼女の笑顔が眩しかった。 「まあ、はい」 「傘いります?」 「いらないです。止むの待ってればいいんで」 ぶっきらぼうな返事に 彼女は一瞬きょとんとした後、 ふふっと笑った。 「そっか。待ってたら冷えません?ほら、これ」 そう言って、 自分の傘を差し出す。 「いらないです」 俺がこの傘受け取ったら、 君はどうするの? 濡れてもいいの? 何も考えてないような軽やかな笑顔に、何だか心の中がざわめいた。 「傘、ひとつしかないでしょ」 「半分こしようかなって」 思わず眉をしかめる。 何も言い返せずに、ただ黙ったままその笑顔を見つめた。 何、この子。 自分とは真逆の明るさで 人と距離をとって生きてきた自分には正直関わりたくないタイプ。 なはずなんだけど 何となく、 眩しいのに陰があって その隠れた何かが気になって 「じゃあ、入れてください」 俺は、彼女の傘の中へ 入ってしまった。 「ねえ、ちょっと散歩しましょう」 「え?やだ」 「なんで!ちょっとだけ!」 傘に入れてもらってる身で 早く帰りたいんだけど、 なんてわがままは言えず 結局彼女の言うことを聞いて 歩き出す。 「こっち、行ってみません?」 彼女がそう言って指差したのは、 人気のない裏通り。 「なんで、そんなに楽しそうなんですか」 「だって、雨って静かで綺麗じゃないですか?夜も好きだし」 「俺は、濡れるのが嫌いです」 「さっきからめちゃくちゃ濡れてますけどね」 くすくすと笑う彼女に、思わずふっと笑みを漏らしてしまう。 自分でも驚くくらい、自然に。 「笑うんですね」 「どういう意味?」 「何考えてるか分かんない顔してるな〜って思ってました」 「よく言われる」 「でも、なんか普通の人っぽいかも」 「それ、褒めてるの?」 「もちろん!」 彼女の言葉は軽やかで 言葉の選び方がまっすぐで。 人を探ろうとしないのに、 心の奥に届いてくる。 なんでだろう。 こんな風に話すのは すごく久しぶりだった。 気づけば、俺らは住宅街の坂道に出ていた。 傘の下で並んで立ち止まる。 街灯の光に、 雨がキラキラと反射していた。 「ねえ」 「はい」 「連絡先、教えて」 「えっ、今?今ですか?」 「今じゃなきゃ、忘れるから」 彼女は驚きながらも笑って、 スマホを取り出す。 お互いに無言で連絡先を交換し、少しの沈黙。 「もう家、すぐそこだしここまででいいです。ありがとうございました」 「わかった。じゃあ、また」 そのまま彼女はひらりと手を振って、坂道を降りていく。 俺はその後ろ姿を、 しばらくの間見つめていた。 翌朝。 自分のスマホを見つめる。 昨日のたった一晩 話しただけの人。 でも、心のどこかに 妙な余韻が残っていた。 消そう。 そう思い指を スクロールさせる。 けれど その指は途中で止まった。 なんで、 こんなに迷ってんだろう。 迷う理由なんて、 普段の自分には存在しない。 関わるつもりがないなら、 切ればいい。 ただそれだけ。 だけど。 昨日の別れ際の彼女の “また”の声が 頭の中を何度も流れる。 もう一回だけ。 もう一回だけ会って、 何か違ったらそれでいい。 自分に言い訳するように呟きながら、スマホに指を滑らせた。 「ねえ、今日少しだけ会える?」 『うん!またお散歩しましょう!』 すぐに返ってきた軽やかなその返事に思わず笑った自分に驚きながら、 俺はスマホを伏せた。 “もう一回だけ”の つもりだったあの夜が、 やがて俺の世界を、少しだけ変えていくとはまだ知らずに。 #創作 #短編小説 2025/05/26に公開29,800 回視聴 6.31%1,74211君のすぐに謝る癖とか 君の珍しい服の畳み方とか 君のすぐに荷物を 持ってくれるとことか 全部全部好きなところだけど、 でもそれは 誰から貰ったものなんだろう。 「その香水、もうすぐ切れそうだね」 大好きな彼の匂い。 「ん?あー、新しいの買おうかな」 少しだけ濁す彼。 「なんで?同じの買えばいいじゃん。その匂い好きだよ、私」 「…まあ、でもなんか気分的に新しいのがいい」 根拠なんかない。 でも大体こういうときは当たってる。 その香水、 多分元カノから貰ったんだなって 私の好きになった彼は、 私の知らない誰かが愛した彼で その知らない誰かの存在に 胸の中で渦巻く感情。 彼の初めても 大事な思い出も 些細な出来事も 全部私で埋まって欲しいなんて そんなわがままばっか 浮かんできて 口には出せないし ぶつけるところなんかないけど 頭の中はそんなことばかり。 でも、もしその知らない誰かに 愛されていない 彼だったとしたら 私の好きな彼ではないかもしれない。 私の好きになった彼は全部、知らない誰かが作り上げた彼なのかもしれない。 香水を片手に眺めながら 彼がゆっくりと口を開く。 「ねえ絶対さ、なんで?って口癖だよね」 そういえば、 あの人の口癖は “なんで?”だった。 #創作 #失恋 #復縁 #元彼 2025/05/25に公開17,400 回視聴 4.4%7092夏が来る度に思い出す。 人生の中で 唯一楽しかったあの年の夏を。 花火を見ていた、 あの横顔を。 「……なんか、誰?」 「誰って、俺だけど」 助っ席で、るいの横顔を見る。 別人のように感じるのは 何故だろう。 「仕事、忙しい?」 「んー、忙しいけど楽しいよ。多分営業向いてるし、俺」 無邪気に笑う顔だけは、 あの頃と変わらない。 仕事帰り、カフェに寄って コーヒーを テイクアウトしていた時だった。 カウンターに見覚えのある背格好がいて思わず声をかけた。 そこから 今に至るわけだけど、 「せな、しんどくない?」 「え?なにが?」 「仕事、大変なのかなって思った」 「…んー?どうだろ」 「どうせ家と仕事の往復しかしてねえんだろ。休みの日は寝たいとか言って」 図星だった。 見透かされてるみたいで、 思わず吹き出した。 「そうかもね。連れ出してくれる人、いないからね」 「なあせな、俺さ」 「るいは彼女いないの?」 「え?」 「いないわけないかー。かっこいいし。女の子なんか沢山寄ってくるでしょ?」 寂しかったのかもしれない。 私の知らない顔で、 でも私の知ってる笑顔で 生きていて まるで置いてかれてるみたいで。 先にるいを置いていったのは、 私なのに。 そんな気持ちが邪魔をして、 つい棘のある言い方をしてしまう。 「女の子とか、取っかえ引っ変えでしょ」 「……俺が、そんな男に見えてんの?」 「んー見えるかも?なんか髪の毛めっちゃ明るくなってるし。そんなネックレス、する人だっけ?」 「なんもわかってないんだな」 「……え?」 窓の外を見ていたるいが ちらっと私を見た。 見つめる視線が、痛かった。 るいの目は大きくて吸い込まれそうで、怖い。 「俺、お前のこと好きだったんだよ」 「…え」 「あの頃は、ガキだったから言えなかった。だからずっと後悔してたよ。自分の気持ち言わないまませながいなくなったこと。」 初めて聞いた、るいの気持ち。 曖昧だったあの頃の私達の影が 鮮明に縁取られていく。 「でも今は違う。もうガキじゃない。後悔する前にちゃんと言う。せな、好きだよ。今でも」 真っ直ぐすぎる、るいの言葉。 あの頃は、 何も言わなかった私達。 いや、言えなかった。 曖昧なままが、 心地よかったから。 だけどあの頃よりも大人になって強くなったるいは、はっきりと私に気持ちを伝えてくれた。 それが、私はまた寂しかった。 私はこんなにも、 自分の気持ちを吐き出すことが怖いのに。 るいが今、さらっと言ってしまったから。 「せな、なんか言って?」 「……言えない。言いたくない」 「なんで」 「言うのが怖い」 「…しょうがねえな、せなは」 突き放されるような言葉。 胸がちくりと傷んで顔を上げれば、るいは眉を下げて優しく笑っていた。 「せな、好きだよ」 昔から、そうだった。 私を輝くところへ 連れて行ってくれる。 私を綺麗なところへ 引っ張りあげてくれる。 「私も、好きだよ。ずっと」 その瞬間、 るいの匂いが鼻をくすぐった。 温かい体温に包まれる。 顔を上げれば、 私の大好きな、楽しそうなるいの笑顔があった。 #創作 #短編小説 2025/05/24に公開12,000 回視聴 5.81%6454「ねえ!マーカーペン、持ってない?」 隣の席から聞こえた、 明るい声。 横を見ると申し訳なさそうに、でも楽しそうに笑う男の子。 私たちが仲良くなるのに 時間はかからなかった。 「せな!今日さ、ゲーセン行こうぜ」 「えーなんで?家帰って漫画読みたいんだけど」 「いいから行こ!」 嫌がる私の手を引いて無理矢理ゲーセンへ連れてくるい。 いつもそうだった。 腰が重い私を、無理矢理どこかへ連れ出してくれる。 そして、私の知らない景色を見せてくれる。 るいの横にいれば、 なんでも出来る気がした。 沢山の楽しいことが 待ってる気がした。 「ねえせな、夏休みなにする?」 修了式の日。 担任の先生が夏休みの注意点を教卓の前で話している中、 隣の席でわくわくが隠せない顔で楽しそうにるいが笑ってた。 「どこも行きたくない。暑いじゃん」 「はあー?夏に家?ほんとせなってアホだな」 「るいに言われたくないんだけど」 「海行こうよ、まじで」 「絶対やだ。暑いし濡れたくない」 想像しただけで、地獄。 嫌そうに顔をしかめる私に、 るいが行こうと何度も説得する。 「るい、せな!うるさい!イチャイチャしたいなら後でやれ!」 担任の先生の怒声が教室に響き、 クラスメイトがどっと笑った。 最悪、と溜息を吐く私と対象に 何故か嬉しそうに笑うるい。 やっぱりるいは 変なやつだった。 夏休みに入って 結局私は、るいに強引に色んな場所へ連れていかれた。 プールも行った。 海も行った。 川も行った。 BBQもした。 もうお腹いっぱいってくらい、夏を楽しんだ。 こんな夏、初めてだった。 嫌いだった夏が好きになった。 るいといれば 、 知らない景色を見れる。 知らない気持ちを教えてくれる。 私の中で初めて浮かんだ、 “会いたい” の気持ち。 8月12日。 初めて私は、 るいを呼び出した。 「何?マジで。」 突然の呼び出しに、 絶対なんかあるでしょ、とやけに疑うるい。 「なんもないって。」 「何もないわけねえじゃん、早く言ってよ」 「ほんとになんもない。ただ、」 街灯の下、足を止める。 「なんか、るいに会いたかった」 「あのさ」 るいが何かを言おうと口ごもる。 覚悟を決めたように、 息を吸ったその瞬間だった。 「あれ?せなじゃん!るいも!」 クラスメイトが、 自転車で通り掛かる。 張り詰めた空気が ふっと不自然に緩んだ。 その感覚が 胸に違和感だけを残す。 去っていくクラスメイトの背中を見て、るいが静かに呟いた。 「31日の花火大会、一緒に行こうよ」 「うん」 そのまま私達は、 微妙な雰囲気のまま家に帰った。 そして、31日。 この前の余韻がまだ残っていた私達は、少しぎこちない。 「花火、よく見えるとこあんだよね」 るいの地元で 行われる花火大会。 るいの後ろをゆっくり歩く。 会話は、 いつもより少ない。 「ねえ、るい。私話したいことあって」 前を歩いていたるいが振り返る。 るいの顔を見たら、 言おうとしていた事が 喉を上手く通らない。 ちゃんと言おうって、 決めたのに。 いざるいの顔を見たら、 言えない。 「花火終わったら、言う」 るいは ああ、とだけ短く返事をした。 人気のない神社の石段に 2人で並んで腰掛ける。 大きな音を立てて咲いていく花火。 私の目は、 花火じゃなくて るいの横顔を見つめていた。 忘れないように。 噛み締めるように。 「……お前さ」 じっと花火を見つめていたるいは、視線をずらすこと無く口を開く。 「花火見ろよ」 「ねえるい、私さ」 「ん?」 「…引っ越すことになった」 夜空に咲いていく花火が 二人の間を切り裂くように音を立てていた。 #創作 #短編小説 2025/05/23に公開97,100 回視聴 5.12%4,63210彼は最初から変な人だった。 いつも何を考えてるのかわからない。 急に近づいてきたり 急に離れたり。 彼はいつも、わからなかった。 初めて同じクラスになった 中学2年生。 男の子達の集団の中で 少し遠くで見守っていたり 時々真ん中で騒ぎ出したり 変な人、って思ってた。 「可愛いね」 突然話しかけられたあの日、 やっぱり変だなと思ったし 何だこの人、と思ったけど 「可愛い。今日も可愛い」 少しだけ笑いながら 真っ直ぐ私の目を見ていう彼に 簡単に心を奪われた。 その日から私達が仲良くなるのに時間はいらなかった。 気づけばずっと一緒にいた。 でも、仲良くなればなるほど 気づいた。 私達がずっと一緒にいるのは、 離れそうになる彼の手を 必死に私が掴んでいたから。 彼が少し遠くへ 行きそうになったとき、 手を伸ばして引き止める。 もし私が手を伸ばさなくなったら、簡単に彼はいなくなる。 それでよかったの。 隣にいてくれるなら。 「私達、友達だよね」 「ゆなちゃんが1番の友達」 友達っていう名前を借りて、 無理矢理繋ぎ止める関係。 それでもよかったのに。 「彼氏とか、作んないの?」 ある日不意に言われた その言葉。 目の前が真っ暗になった。 もしも彼は、私が手を離したら どうなるんだろう。 ずっと私が 繋ぎ止めていた関係は、 私が手放したら、なかったように消えてしまうのかな。 『俺ゆなちゃんいないと生きていけないかも』 ある日ヘラヘラと笑いながら 言われた言葉を思い出す。 彼のことだから冗談のつもりで 言っていたのかもしれないけど、 私はそれに懸けてみたくなった。 「彼氏、作る」 そう宣言した日から、 私は連絡を取るのをやめた。 心のどこかで期待してた。 彼が私の手を掴んでくれるって。 そしたら、私達の関係は 私の一方的なんかじゃないって証明できる。 でも結局、彼から連絡がくることはなかった。 何度も見返すLINE。 誘うのはいつも、 私からだったな。 誘えばいつも来てくれるけど 彼から誘ってくれることはない。 やっぱり、一方的だったんだなって何度も思い知った。 それでも諦められなくて 何度も何度も彼からLINEが来るんじゃないかなって信じてた、 ある日。 「久しぶり」 懐かしい彼の声。 「…清水くん」 「LINE、無視しすぎじゃね?」 無視だと思ってたんだって 胸の奥がぎゅっと苦しくなる。 あなたからの連絡、 待ってたんだよ。 「あー、彼氏できたの。私」 こんな嘘、 つかなくたっていいのに 彼がなんて言うのかなんて そういう好奇心が また自分を苦しめる。 「なんだ、それならよかったわ」 いつものように笑う彼に やっぱりね、って 私ももう笑うしかなかった。 嘘じゃん、全部。 「清水くんって、嘘つきだよね」 少し乱暴に投げた言葉も、 結局中途半端に散って 思ってもない綺麗事を並べて 思ってもない幸せを願って 彼とは別れた。 やっと私は手を離した。 何年間も 無理矢理繋ぎ止めていた関係。 多分私は、 この関係性に縋ってた。 それがもう、終わった。 私が手を離した途端 呆気なく終わってしまった。 思ってたよりも 脆かった。 何もかももう忘れたくて 彼との写真も消して 彼のLINEもブロックした。 もう、何もなかったんだって思うしかこの痛みを消す方法が見当たらなかった。 そしていつの間にか、 私の世界には 彼がいなくなっていた。 これでよかったんだと思う。 もう彼との思い出を 振り返るのはやめた。 出会う前に戻っただけ。 #創作 #短編小説 2025/05/22に公開16,600 回視聴 4.94%7594もし俺が、あの時彼女に好きだと言えてたら。 そんなもう有り得ない未来を 何度も考える。 もし彼女の隣に並んでいたら きっと、 今はどうでもいいと思うような景色さえきっと輝いて見えていたのかもしれない。 掴めないんじゃない。 掴まなかった。 するりと手から溢れていきそうで、掴んだのにいなくなってしまったら その時は俺の心が耐えられない気がした。 だからずっと逃げていたのに 結局彼女は、いなくなった。 「清水くんって、嘘つきだよね」 いつもの笑顔で言うその言葉に 無理矢理あげた口角が一気に下がる。 「嘘ばっかだよ、清水くん」 「え?」 「私がいないと生きていけないとか言ってたのに」 あー、と小さく漏れた声。 「ゆなちゃんに、彼氏がいるなら別だよ」 「そうだよね。友達だもんね、私達」 少しだけ、迷った。 友達だと思ってないよって、 言うべきかと思った。 もう嘘をつくのは、 やめたかった。 「そうだよ」 でももう今更、本当のことを言えるはずがなかった。 「じゃあ、友達として言うね。清水くんも、彼女作ってお幸せに」 「うん」 その彼女は、 ほんとは君が良かったんだけど なんて思いながら 曖昧に返事をして また俺は歩き出す。 なんとなくだけどもう 彼女とは終わりな気がした。 わかってる。 俺が終わらせた。 俺がちゃんと 自分の気持ちを伝えてたら ビビらずに彼女の手を掴めば まだ終わらずに 済んだのかもしれないけど 曖昧に残る彼女との空白を 埋めるのが怖くて 結局中途半端に残したまま、 俺はやめた。 それでも何にも変わらない毎日でいつも通りの日々を過ごす。 昔は当たり前に彼女がいたのに 気づいた時には 俺の世界にはいなくなって きっと 世界は毎日、 少しずつ変わっていて 自分でも気づかないくらい 小さく変わっていて 振り返った時に、 やっと気づく。 大事な何かが なくなってることに。 もう、戻れないんだなって やっと気付いた時 初めて俺は、どうしようもない喪失感に襲われた。 好きだったから、隣にいたくて嘘をついていた日々。 好きだったから 友達のフリをしていた。 多分俺は、 この関係性に甘えてた。 でももう、 友達ですらなくなった今 俺が嘘をつく必要がなくなった。 『ゆなちゃん、好きだよ』 今まで必死に積み上げてきた嘘を守る必要なんかなくなって 初めて俺は 自分から彼女にLINEをした。 初めて、 自分の気持ちを伝えた。 でも、それが届くことはなく ずっと未読のままだった。 #創作 #短編小説 2025/05/21に公開10,700 回視聴 3.98%3804未読のままのLINE 最後に会ったあの日から 彼女から返信は来なくなった 最初は、 特に気にしてなかった。 彼女は気まぐれだし 前も何度か数日間返信が来ないこともあったし 今回だって、またしばらくしたら来るだろうって思ってたのに 結局、俺のメッセージに 既読がつくことはなかった。 ずっと取り続けてた連絡が なくなっても 頻繁に会うことがなくなっても なんか、意外と平気だった。 あんなに彼女の事が 大好きだったはずなのに 思っていたよりも 俺は彼女のいない世界でも 普通に生きていて それに自分で気づいてしまったとき、何だか何年間も見ていた夢から覚めてしまったような気分だった。 それからしばらくして 学校の帰り道。 何となくいつもと違う道を 歩いていた日、 少し奥で見覚えのある背格好が歩いてるのが見えた。 ゆらゆら揺れるポニーテール。 思わず足が止まる。 どんどん小さくなっていく 彼女の背中。 はっと我に返り、 彼女の元へ駆け寄った。 「久しぶり」 ポン、と肩を叩くと彼女は 俺を見た途端目を大きくした。 「…清水くん」 「LINE、無視しすぎじゃね?」 軽く笑ってそう言えば 彼女は唇をぎゅっと噛んだ後、 きゅっと口角を上げた。 「あー、彼氏できたの。私」 一瞬だけ、喉がしまったような感覚がして上手く声が出なかった。 「だからLINE返さなかった。ごめんね」 「なんだ、それならよかったわ」 うん、と彼女が曖昧に笑って 俺も次の言葉が見当たらなくて 彼女と俺の間に流れる空気みたいなものが全く違うものに変わってしまっていて あんなにずっと一緒にいたのに あんなに長い時間をかけて作り上げてきたのに 崩れるのは一瞬だった。 でも、当然だった。 ずっと俺は好きだったのに 彼女のことが大好きだったのに 友達のフリをして ずっと嘘をつきながら作り上げた世界だったから 脆くて当たり前だった。 『友達じゃん、 なんでも言ってよ』 『俺ら友達だもんね』 何度も何度もつき続けた嘘が 頭の中を駆け巡る。 「じゃあ俺行くわ。彼氏さんとお幸せにね」 もう彼女の横に立っていられなくて、俺は少し大きな歩幅で歩き出した。 「清水くん!」 後ろから聞こえた彼女の声に ぴたりと足が止まる。 無理矢理笑顔を作って振り返った。 「なに?」 「清水くんって、嘘つきだよね」 #創作 #短編小説 2025/05/20に公開29,200 回視聴 3.35%9083彼女はいつもどこか 掴めなかった。 よく笑うのに よく話すのに あんなに近くにいたのに 結局俺は、彼女の1番大事なことは何にも知らなかった。 高校生になると 学校がバラバラになった。 毎日一緒にいたのに 学校に行けば彼女に会えたのに それがなくなると思うと 俺、生きていけんのかなって心配になったけど 思ったより平気だった。 思ったより、 彼女がまだ近くにいたから。 『ねー、今日会お』 『バイトおわったら迎えにきて』 『数学赤点かも。たすけて』 毎日やり取りが続くLINE。 しょうもないLINEばっかだったけど、時々くる彼女からの誘いのLINEが嬉しくて 『いいよ。学校終わったらいくね』 『いつもの時間でいい?』 『どこがわかんないの?教えてあげる』 自分でも引いちゃうくらい、 いつもニヤニヤしながら返事をしていた。 「なんか久しぶりだね」 「先週会ったよ」 「先週だよ?昔は毎日会ってたのに」 「なんかさ、可愛さ増したね」 ちらっと俺を見て 訝しげな顔をする彼女。 「なに?」 「なにって、思ったこと言っただけ」 「急にこわい」 「急っていうか、いつも可愛いって思ってるよ」 「チャラくてなんかやだ」 くすくす笑う彼女に 心の中でチャラいのはどっちだよ、って突っ込んだ。 何回可愛いって言ったって 笑ってかわす彼女は きっともう言われ慣れてて なんとも思ってない。 「てかさ」 携帯をいじりながら、ん?と返事をする彼女の横顔を見て 少し躊躇いながら口を開く。 「彼氏とか、作んないの?」 「あー」 彼女は文字を打つ手を止めて、 空を仰いだ。 思わず息を飲む。 「作ろうかな」 ぱっと携帯の電源を切って雑にカバンの中にいれたあと、俺の目をじっと見る。 「彼氏、作る」 もしもこの時、 俺が素直になっていたら。 〝清水くんが1番の男友達だよ〟 なんて言葉とこの関係に甘えずに ちゃんと 自分の気持ちを伝えれていたら 本当はずっと好きだったって、 言えてたら 今もまだ、そんなことばかり考えてしまう。 #創作 #短編小説 2025/05/19に公開22,100 回視聴 2.8%5763ずっと俺は 彼女に嘘をついていた。 隣にいれるなら なんでもよかったから。 平気で溢れる嘘なんか、隣にいるための手段だと思えば全く気にならなかった。 ほんとに、 なんでもよかったんだよ。 ただずっと彼女の近くにいれるなら、それだけで。 初めて出会ったのは、 中学2年生の時だった。 同じクラスになった。 いつもクラスの中心で楽しそうに笑う彼女に自然と目を奪われていて 今までずっと男とばっかいたから、 女友達なんかできたことないし 好きな人すらできたことなくて 女の子と話したいとか 思ったことはなかったのに、 彼女は 彼女だけは 話しかけてみたくなった。 あの楽しそうな笑顔を、俺に向けてくれたらいいと思った。 そうやって毎日彼女の笑顔を見ていたら、突然心の声が漏れてしまったように 「可愛いね」 って、声をかけた。 「……え?」 ぴたりと固まる彼女の顔。 静まり返る教室。 完全に、間違えたんだと思う。 「可愛い。今日も可愛い」 もう開き直るしかなかった。 こうするのが最善策だった。 別に、嘘じゃなかったし。 「何言ってんの、清水くん」 そう言って俺の名前を呼びながら、ずっと遠くから見てたあの笑顔で俺を見た。 恋とかそういうのは難しいし どんなものなのかも 俺は知らないけど もしそういうのがあるとするなら、 今俺が彼女に抱く感情は 間違いなく恋心だと思う。 その日から俺は 彼女と話すようになった。 毎日毎日彼女に話しかけて どうしたら笑ってくれるかを 必死に考えて コロコロと変わる表情が、 可愛くてしょうがなかった。 眠そうに目を擦りながら 必死に授業を受ける姿も 結局限界で寝ちゃってる姿も 運動音痴で、 体育でヘマしてる姿も 楽しそうに誰かと笑う姿も もう、何もかも可愛かった。 「ねえ、なんでそんなに可愛いの?」 「はぁ?きもいよ、清水くん」 可愛い顔に似合わない言葉を 時々吐き出すところも可愛い。 「清水ってほんとゆなちゃんのこと好きだよね」 「可愛いじゃん、めっちゃ」 「付き合わないの?」 少し遠くで、友達とじゃれてる彼女の後ろ姿を見ながら考える。 ゆらゆら揺れてポニーテール。 楽しそうに跳ねてる彼女の笑い声。 「逃げるから、あの子」 「逃げる?」 「掴めなくね?」 ちらっと友達の方を向けば は?って顔で俺を見ていて 思わず笑った。 「わかんなくていいけど。てか、わかってても困るわ」 ぱっと椅子から立ち上がり、 彼女の傍へ行く。 「あ、ねえ!清水くん」 すぐに気づいて 笑顔で話しかけてくれる彼女。 まあ、今は まだこのままでいい。 この笑顔を向けてくれるなら、 今はまだ。 #創作 #短編小説 2025/05/18に公開29,500 回視聴 4.0%1,0944春が来るたびに君を思い出す。 光の中で笑う君は、 誰よりも自由で わがままで 少しだけ泣き虫で、 信じられないくらい綺麗だった。 初めて会ったときから、 ずっと目で追ってた。 声をかける勇気なんてなくて、遠くから君の笑い声を聴くだけで満たされて それでも何かの偶然重なって 君と話せるようになって 名前で呼ばれて、 手を繋いで、 君の“ごめんね”は 大体甘えるための伏線で “ありがとう”の言い方が 少しだけ照れくさくて 何度も呆れたふりしてたけど それがなんだか すごく好きだった。 君の気まぐれに胸が高鳴って 君の沈黙に不安になって 僕はいつも遅れて気づく。 君が笑ってるときほど、 心が離れていってることに。 あの日の君は、 機嫌がよかった。 何度も言いかけては飲み込んだ言葉が、結局どこにも届かなかったこと。 ずっと君を見てたから、本当は何を言いたかったのかはわかってた。 君は「ごめんね」って笑った。 泣きそうなのに笑ってて、 僕は「大丈夫」って 答えるしかなかった。 君を困らせたくなかったから。 ほんとは、泣きたかったけど。 “もっと早く出会えてたら” “もっと僕が器用だったら” そんな“もしも”ばかりが 頭の中をぐるぐる回る。 あの日の僕らには 終わりの匂いがしていた。 春が、何もかもを過去にした。 暖かい風も 桜の匂いも 君の髪の先に触れた日も、 全部優しすぎて痛い。 もう君のわがままに 振り回されることも、 君が僕を呼ぶ声で 振り向くこともできない。 でも耳が覚えてる。 あの無邪気な笑い声。 光の中で、あんなに綺麗だったのになんで僕はちゃんと抱き締められなかったんだろう。 #創作 #失恋 #復縁 2025/05/17に公開8,703 回視聴 4.75%3873もしも、また俺が光を見れるんだとしたら 暗闇から抜け出して 1番に見たいのは 彼女なのかもしれない。 ________ 吉岡さんからまた依頼が届いたのは、それからしばらく経った頃だった。 部屋に入ると、 「…あれ」 片付けられた、綺麗な部屋。 振り返ると彼と目が合う。 すると吉岡さんは、 ぷいっとそっぽを向いた。 「片付けたんです、あなたが来るから」 「……私の仕事って、知ってます?」 家事代行サービスなのに 家事をしておくなんて 本末転倒。 吉岡さんが私の横すり抜けて、 ソファにどかっと座った。 「今日は別に、何もしなくていいです」 「え、」 「適当に座って」 立ち尽くしていた私を見上げて吉岡さんがそういった。 私は何となく、 ソファーの下に座った。 そして、 沈黙。 もしかしてこれ、私が何か言わなきゃいけないの? なんか話しかけてくれるんじゃないの? 話しかけなきゃいけないの? 頭の中でぐるぐると考える。 そして先にそんな沈黙を破ったのは、吉岡さんだった。 ________ 「…ご飯、美味しかったです」 話したいことは、沢山あった。 聞いて欲しいことも、 聞きたいこともあったのに。 彼女が来た途端、何を話せばいいかわからなくなった。 そして絞り出たのが、これ。 でも嘘じゃなかった。 本心だった。 彼女のご飯を食べて、久しぶりに人の温もりを確かに感じて 彼女の心に触れた気がして。 「何かリクエストあったら教えてください。…あ、もし良かったら今日作りますか?冷蔵庫何か入ってたら軽く、」 立ち上がった彼女の腕を、 気づいたら俺は掴んでいた。 「……吉岡さん?」 「俺、ずっと暗闇で」 ぎゅっと込めていた力を弱める。 「ずっと真っ暗で。でも、あなたのご飯食べたらなんか…、電気、つけれたんです」 リビングの間接照明を指さす。 ずっと真っ暗な部屋で、電気も付けずに過ごしていたのに 久しぶりにつけれた間接照明。 「…ああ、だから今日部屋明るいんだ。この前真っ暗だったから、ちょっと掃除しにくかった」 悪戯っぽく笑う彼女に、 胸が静かに音を立てる。 そして、彼女の静かに息を吸う音が聞こえた。 「暗闇でも、いいじゃないですか。明るいと、見たくないものもみえちゃうから」 「……え、」 微かに声が漏れた。 間接照明に照らされた彼女の顔が、苦しかった。 「暗くても、いいと思いますよ。私は」 _______ そういった途端、 吉岡さんはすっと立ち上がる。 何事かと視線を追えば、 突然、部屋の電気がついた。 眩しくて思わず目を閉じる。 「あなたの、見せたくないもの見せてください」 明るい部屋で、 私の目を見て真っ直ぐ見つめる彼。 もう、出会った時の弱々しい彼はいなかった。 #創作 #短編小説 2025/05/16に公開13,000 回視聴 4.35%5295何も、手につかなくなった。 俺の世界から光が消えたのは、 3年前。 もう俺は、 ずっと真っ暗な闇の中にいた。 ________ 『家事代行サービス』 時給が高く、また上手く融通が効くことから選んだこの仕事。 短期的なものもあれば 長期的なものもあるけど、 今日私の元に依頼が来たのは長期依頼。 久しぶりの長期依頼に、少しだけ緊張している自分がいた。 長期依頼は信頼関係が必須だから。 短期依頼であればその日限りだから何も気にしなくていいけど、 長期依頼は定期的にサービスを行うから、嫌でも関わらなきゃいけない。 それが嫌だった。 少し憂鬱な気持ちを抱えたまま、インターホンを鳴らす。 出てきたのは、 「……家事代行サービスの依頼を受けました。吉岡さんで、お間違いないですか?」 吉岡翼、だった。 3年前芸能界から姿を消した彼。 まるで別人みたいな彼が、 そこにいた。 「…はい。お願いします」 掠れて、今にも消えそうな吉岡さんの返事。 そのまま彼の後ろについて 家の中へと入った。 中には、空き缶や食べ残し、 脱ぎ捨てられた服が散乱していて 誰が見てもわかる荒れた部屋。 「今回のオプションは、部屋掃除、お風呂掃除、洗濯、料理の作り置きでしたので早速部屋掃除から始めていきますね」 私の言葉に吉岡さんは軽く頷いて、ソファーに腰掛けた。 _____やりにくい。 かなりやりにくい。 掃除中、ずっと視線を感じる。 横目で見ると、吉岡さんがチラチラ私を見ていた。 人に自分の部屋の片付けを任すのは、何となく色々気になるのはわかる。 わかるけど、 さすがに見すぎてない? 見ないでください、とは言えない私はその視線に耐えて、空き缶をゴミ袋へ捨てていた。 すると、 「何も聞かないんですか」 小さな、か細い声がした。 空き缶を拾う手が一瞬止まる。 でも、振り返らずに返事をした。 「なにがですか?」 「…俺の事、何も、」 「聞かないですよ」 振り返れば少しだけ目を見開いた吉岡さん。 「めんどくさいじゃないですか、色々。他人に踏み込んでもいいことないですよ」 そう言った私に、 吉岡さんがふっと笑う。 やけに乾いた笑いだった。 「…確かに」 その後、吉岡さんからの視線を感じることはなかった。 _______ 誰もいない、静かな部屋。 ずっと散らかっていた部屋がやけに綺麗で、それが居心地悪かった。 「めんどくさいじゃないですか、色々。他人に踏み込んでもいいことないですよ」 今日の彼女の言葉が、 困ったように笑う彼女の顔が 頭から離れなかった。 俺が芸能界を離れてから、 昔からの知人には 『なんで?なにがあったの?どうしたの?』 って会う度聞かれて、 街を少し歩けば 『吉岡翼だ!!!』 『…なんか、やつれてない?』 ネットを開けば 『吉岡翼何で急に消えたの?』 『病気とか?』 好奇心の目。 どこへ行っても向けられる視線。 ある事ないこと言われ続ける。 そういうのが全部嫌だった。 全部もう、やめたかった。 彼女だけだった。 俺に興味を示さなかったのは。 それが居心地よかった。 それに安心した。 ただ、彼女を無関心に変えてしまったのは一体誰で、 一体何をしたのか。 それが気になってしまう自分が 嫌だった。 今まで自分が散々拒否してきた興味を、今度は俺が向けてしまっている。 「………はあ、」 誰もいない、無機質な部屋に 俺の溜息だけが響いていた。 #創作 #短編小説 2025/05/15に公開16,400 回視聴 4.42%6597「お前って、この世に恨みでもあんの?」 放課後、 帰り道の事だった。 学校の傍の並木道を歩いていた時、 後ろから声がして振り返ると ブレザーに手を突っ込んだ、 奥村朝陽が立っていた。 「…恨み?何の事?」 「“今日も朝からイライラする。全員消えろ” “満員電車無理。早く降りたい” “山本先生の授業クソつまんない。教科書読んでるだけ。給料泥棒” “あみちゃん彼氏の惚気ばっかでうざい。聞いてねえよ”」 ポケットから取り出した黄色のメモは、私ののものだった。 奥村くんの口から出た言葉たちも、 私のものだった。 「……えっ、と」 「はい」 何も言えずに黙ってる私に メモを手渡した。 そのまま通り過ぎていく背中に、私は慌てて問いかける。 「…この事、誰かに言った?」 「言ってないけど」 「誰にも、言わないで」 ちらっと振り返った奥村くんは、私をじっと見つめたあと 何も言わずに歩き去っていった。 ________終わった。 次の日、 学校に行くのが凄く嫌だった。 奥村くんに噂を広められていたらどうしよう。 あんな悪口まみれのメモ帳、 絶対に広められる。 憂鬱な気持ちのまま、 学校へ向かい教室に入る。 「おはよー!」 明るい声のクラスメイト。 もしかして、 誰も知らない? いつもの雰囲気が流れる教室。 私はそっと胸を撫で下ろす。 じりじりと痛い視線を感じて、 教室の後ろを見ると 奥村くんがじっと私を見つめていた。 その日の放課後、私は奥村くんの後をつけていた。 人通りがなくなったら、 話しかける。 絶対他の人に言わないと約束してもらいたかった。 でも、思っていたより奥村くんは歩くのが早くてずんずんと進んでいってしまう。 置いてかれないように 見失わないように 必死に追いかけていた時だった。 「……何?ストーカー?」 奥村くんが、振り返らずに私に言った。 「…バレてた?」 「バレバレ。何?」 「あの、昨日のメモのことなんだけど」 奥村くんはゆっくりと振り返る。 「…誰にも、言わないで欲しくて」 昨日のように、 何も言おうとしなかった。 「……だって奥村くんも、読んだ時引いたでしょ?頭の中、こんなこと考えてるんだって」 「引いたっていうか、ムカついた」 「でしょ?だから、」 「お前が、嘘をついて生きてる事に」 「…えっ?」 「お前がクラスで言う言葉、友達と話す言葉、全部真逆じゃん」 奥村くんは、私のブレザーのポケットをゆっくりと指さした。 中に入っている、メモ帳。 ずしりとそれが重く感じた。 「思ってることあんなら、ちゃんと言えよ。真逆なことばっか言うな。自分の気持ちに嘘ついてばっかで、お前、いつか自分を見失うぞ」 「……だって!」 胸の奥がつっかえる。 気付けばずっと表に出さないようにと押し殺してきた気持ちが、溢れていく。 「…思ってること全部いって、そのせいで人間関係上手くいかなかったら?」 「嘘をつかなきゃ続かない人間関係なんて、いらねえよ」 胸がドキリ、と音を立てる。 はっきりと言い切る奥村くんが 強くて、眩しかった。 「誰にも言われたくないんだろ?このこと」 「…うん」 「なら1個俺と約束して」 「何?」 「自分の気持ちに嘘つくのやめろ」 1歩、奥村くんが私へと近づく。 「もう、やめろよ」 すーっと、何かが剥がれていくようだった。 ずっとずっと私にまとわりついた、何かが。 「……わかった。」 私が頷けば、 奥村くんも無表情のまま頷く。 そのまま私達は、 ゆっくりと歩き出す。 2人で肩を並べて歩くのが、 不思議だった。 「じゃあ、言わせてもらうけど」 「ん?」 「奥村くん、自分が思ってるより対してカッコよくないよ」 「……は?」 「学校でちやほや褒められてるけどさ、別に対してかっこよくないし、いつも偉そうだけど大きいのは身長と態度だけだよね」 奥村くんが目を丸くして私を見つめていた。 私もじっと見つめ返す。 「スポーツも、スポーツ万能って言われてるけど足が速いだけじゃん。球技絶望的じゃない?前に体育でサッカーやってたけどどこがスポーツ万能なの?」 「……はははっ!」 突然吹き出す奥村くん。 こんなに笑う奥村くんは、 初めてだった。 「初めて女子からそんなこと言われたわ」 悪口ばかりいったのに、何故か奥村くんは嬉しそうに笑う。 「ねえ、そっちのがいいよ。」 「ああ、そう」 「そっちの方が、好きだよ、俺」 サーっと風が吹く。 優しい風だった。 落ち葉が静かに舞っていた。 #創作 #短編小説 2025/05/14に公開105,900 回視聴 6.59%6,12031暗闇が街を包んでいた。 鼻をくすぐる風が誰かの帰り道をそっと撫でるように横切っていく。 季節が変わる匂いがした。 なにかが終わって、 なにかが始まる。 そんな気配が この空気には確かにあった。 俺はただ立ち尽くしていた。 さっきまで彼女がそこにいたのに、 ゆっくりと暗闇に飲み込まれていく彼女の背中。 どんどん小さくなっていく。 交差点を渡る彼女を ただ黙って見つめる。 呼び止めればよかった。 あの瞬間に、 声を出せばよかった。 必死に手を伸ばせばよかった。 怖かった。 全部壊してしまいそうで。 もう二度と、 笑ってくれない気がして。 俺のダサいところとか惨めなところがバレてしまえば、 もう二度と彼女の笑顔を見れなくなるって。 でも、 「それでもいいや」 小さくつぶやいた声が、 自分の鼓動よりも近くに感じた。 怖いままでいい。 情けないままでいい。 かっこ悪くても、 恥ずかしくても、 それでも、このまま見送るよりはずっといい。 走り出した。 コンビニの明かりが背中に滲む。 交差点の赤信号すらもどかしい。 足が重たいのに、胸の奥はどこか軽くなっていた。 「はな!」 名前を呼んだ瞬間、 胸の奥に詰まってた何かが、 ふっとほどける。 振り返った彼女の目に 俺が映っていて、 それだけで世界が優しくなった気がした。 「なんか俺、怖かったんだよね」 「えっ?」 「はなちゃんに、自分を見せるのが怖くなってビビった。だから咄嗟に嘘ついて自分のこと守ってた」 目を見開く彼女に 嫌われるかもって、 少しだけ怖くなって 思わず目を逸らしそうになる。 「でも、今は違くて」 重なる視線が 胸の奥をぎゅっと掴む。 「ちゃんと向き合いたい。俺の見せたくないとこも全部見せたい。俺さ、はなちゃんのこと好きになりたい」 風が吹いて、髪が揺れた。 彼女のまつ毛が、 かすかに震える。 そしてふんわりと上がる口角。 「私も、かいくんのことちゃんと知りたい。全部知りたい。それで、好きになりたい」 まだ、何が正解かなんて 俺にはわからないし 多分これからも迷うことばっかだ。 怖くて逃げたくなるようなことばっかりで、 でも、誰かをちゃんと好きになるって 自分の見せたくない弱さも、 踏み出す怖さも抱えたまま、 それでも手を伸ばすことなんだと初めて気づいた。 2人で歩き出した帰り道 並んだ影が、 少しずつ重なっていく。 まだ遠い。 でも、あたたかい。 きっと、ここから始まっていく。 ちゃんと好きになるって、 こんな風に始まるのかもしれない。 Fin . #創作 #短編小説 2025/05/13に公開12,000 回視聴 5.87%6409「また泣かせたんだって?」 夕暮れのコンビニ前。 友達の煙草の煙が視界に映る。 茶化すような声に、 俺は無言で肩をすくめた。 「かいさ、いつまでそんなフラフラしてんの?」 「んー」 濁すように、 持っていた缶ジュースを飲む。 何度目かも覚えていない。 名前すら曖昧なまま終わっていく関係に、もはや感情は動かなかった。 好かれることには慣れている。 でも自分が誰かを本気で好きになるなんて、そんな感情には縁がないと思っていた。 ずっとそんなんだったから 初めて出会ったあの子が怖かった。 真っ直ぐな目で、 純粋に俺を見て その瞳はキラキラしてて 見透かされそうで、怖かった。 自分の汚いところをあの子には見られたくなかった。 見られたくないのに 惹かれてしまって 俺みたいな奴が近寄っていいような子じゃないのに引き止めて でもいざ向き合おうとすれば やっぱり怖くて あの子があまりにも綺麗で、 俺の手で汚すのが怖かった 向き合えば 崩れてしまうと思った あの子も、俺の心も。 だから自分で線を引いた。 ここまで、って。 これ以上は 踏み込んじゃだめって。 あの子を守るみたいにして 俺は自分自身を守っていた。 だから嘘をついた。 もう、あの子には会いたくなかった。 なのに、会いたくないのに 毎日毎日あの子の顔が浮かんでくる。 あの子なら、もしかしたら俺は本気で誰かを愛せるかもって そういう自分勝手な期待を重ねた。 「かい、今から飲もうぜ!」 突然かかってきた友達からの電話。 時間帯的にもめんどくさくて 適当に交わしていた時、 「絶対来いよ!はなちゃんいるし」 突然出てきたあの子の名前。 俺は迷わず家を飛び出した。 久しぶりに会ったあの子は やっぱりキラキラしてて、 可愛かった。 まだ少しだけ怖い。 自分の手であの子を 傷つけてしまうかもとか 自分の汚いところを見られてしまうかもとか そういう不安はあった。 でも、それでもいいと思った。 隣で笑う彼女を見ていたら 自分をさらけ出してでも 向き合いたいと初めて思った。 でも、 あの日咄嗟についた嘘がバレた。 ずっと眩しく笑ってた彼女に 影が落ちる。 じわじわと温まっていた心が 一瞬にして冷たくなっていく。 こんな顔、見たくなかった。 「かいくんさ、なんであの日嘘ついたの?」 何も言えない。 言えるわけがない。 ビビったから咄嗟に、なんて そんなダサいこといえない。 何も言わない俺に、彼女は諦めたように眉を下げた。 「…帰る」 彼女の小さな背中に 手を伸ばす勇気なんかなくて ただただ俺は、 黙って見つめていた。 #創作 #短編小説 2025/05/12に公開50,400 回視聴 6.05%2,7999街灯が2人の影を濃く彩る。 2人で黙って歩く帰り道。 「はなちゃん」 「今日、楽しかったね」 「あぁ。うん、楽しかった」 「りょうたくんって、明るいし面白いよね」 「うん。そうだね」 駅までの道。 斜め後ろから かいくんの歩く音と声がする。 私は振り返らずに 何でもない話を繰り返した。 「あのさ、はなちゃん」 「今日いつもより暖かいね」 「うん。春だね、もう」 早歩きで歩いて やっと見えた駅。 前はあんなに早く感じた駅までの道が今日はやけに長く感じた。 「ねえ、はなちゃん」 「じゃあ私帰るね」 2番線の改札へ 歩いていたときだった。 「待って」 私の右腕を、 かいくんが引っ張った。 「なに?」 「俺も、こっちだから」 かいくんは私の右腕を掴んだまま改札を通り抜けてホームに立つ。 その背中をぼんやり見ていたら電車がやってきて そのまま私達は電車に乗り込んだ。 ずっと掴まれたままの右腕。 2駅、3駅と過ぎても かいくんは手を離さなかった。 そして私の最寄り駅につくと、 2人で黙って降りていく。 「かいくん、離して」 何も言わずに歩いていく彼は、 何を考えてるのか やっぱり全く分からない。 「はなちゃんの家、どっち」 改札を抜けると、振り返らずに私に静かに問いかける。 「右だけど」 そしてゆっくりと歩き出す。 「ねえ、離してよ。送らなくていいから」 何も言わずにどんどん進んでいくかいくんに、私は少し力を込めて腕を振り切った。 「離してってば」 やっと振り返ったかいくんは、 振り切った私の右腕をじっと見ている。 黒髪が夜の光に照らされて影になり、かいくんの表情はわからない。 「かいくんさ、なんであの日嘘ついたの?」 ゆっくりとかいくんは視線を上げて私の瞳を見た。 弱々しく、脆くて、 でも静かに強い瞳で 私の目をとらえた。 そしてふっ、と小さく笑う。 「なんで、嘘ついたんだろうね」 笑って、曖昧にして 大事なことは何も言わないで 結局私は彼に1歩も近付けない。 「…帰る」 「うん。じゃあね」 そういった私にかいくんは 最後まで笑って、 ゆっくりと手を振った。 振り返りたかった。 でも振り返れなかった。 カーブミラーには、 私の背中をじっと見るかいくんが映っていた。 #創作 #短編小説 2025/05/11に公開15,900 回視聴 5.06%724412>次へ×インフルエンサーコンテンツCSVダウンロードフォロワー総数、フォロワー増減数、エンゲージメント数、エンゲージメント率ダウンロード※ データには投稿ID, 投稿URL, 説明文, 再生数の他、LIKE数, コメント数, シェア数, 動画尺, 公開日が含まれます。 コンテンツをCSVでダウンロード