放課後の校舎は、 もうすぐ夕方になる気配を帯びていた。 廊下を歩きながら、 政裕は何度も手を握っては開いた。 (言う) (今日は、言う) そう決めていた。 中途半端に、追いかけるだけは、 もうやめる。 昇降口の前で、〇〇さんを見つけた。 美咲先輩と小百合先輩はいない。 一人。 ちょうどいい。 いや、 ちょうどよすぎる。 「……〇〇さん」 『政裕』 振り向いた顔は、いつもと変わらない。 それが、 少しだけ苦しい。 「少し、話してもいいですか」 『うん』 校舎の影。人通りの少ない場所。 夕方の風が、制服の裾を揺らす。 政裕は、一度、深く息を吸った。 「俺」 「中学のときから」 「〇〇さんのこと、好きです」 言葉は、驚くほど真っ直ぐに出た。 「俺は年下だし」 「弟の友達としか見てないのも分かってます」 「でも」 「ちゃんと、好きです」 〇〇は、すぐには答えなかった。 視線を落とし、 少しだけ考える。 『……ありがとう』 その声は、とても優しかった。 『そんなふうに想ってもらえるの、すごく嬉しい』 政裕の胸が、きゅっとなる。 『でもね』 〇〇は、政裕をちゃんと見た。 真っ直ぐこっちを見て、 何も誤魔化さない。 〇〇の好きなとこ。 『私、まだ、、』 『心に引っかかってる人がいる』 『その気持ちを、ちゃんと整理できてない』 一瞬、政裕の喉が詰まる。 『そんな中途半端な気持ちで』 『政裕の想いに応えるのは、違うと思う』 『だから』 『……ごめんね』 断られた。 ちゃんと。 でも。 俺の想いは、雑には扱われなかった。 政裕は、 少しだけ俯いてから、顔を上げた。 「……はい」 声は、思ったより震えていなかった。 「言えてよかったです」 「本当に」 「後悔、してないです」 〇〇の目が、少し潤む。 『ありがとう』 『伝えてくれて』 政裕は、小さく笑った。 「じゃあ」 「俺、帰ります」 『気をつけて』 背中を向けた瞬間、 胸の奥が、一気に崩れそうになった。 でも。 ここでは、泣かない。 校門を出ると、そこに、直弥がいた。 「……おかえり」 その声を聞いた瞬間。 政裕の目から、一気に涙が溢れた。 「……っ」 「……おい」 直弥は、慌てずに、ただ隣に立ってくれた。 「……言ったんだ」 政裕は、頷きながら泣いた。 「……振られた」 「うん」 「でも」 「ちゃんと、言えた」 直弥は、少しだけ間を置いて言う。 「それ、すごいことだよ」 政裕は、肩を震わせながら笑った。 「……お前の姉ちゃんより」 「好きになれる人いるかな?」 直弥が、小さく笑う。 「いる」 「絶対いる」 「政裕のこと、ちゃんと選ぶ人」 二人は、並んで歩き出した。 夕暮れの帰り道。 涙は、少しずつ乾いていく。 恋は、終わった。 でも。 政裕は、前に進く。 それを、 直弥は隣で、ちゃんと見ていた。 . . . . . #超特急で妄想 #フィクションです2026/01/12に公開9,309 回視聴 8.91%67217委員会が長引いた日の教室は、 いつもより静かで、少しだけ埃っぽい。 黒板はもう消されていて、 机の上には、だれか忘れ物が残っている。 教室の後ろから前を見渡したとき、一番最初に目に入るのは、決まって同じ場所だった。 教卓の上。 だらしなく足を投げ出して座っている草川拓弥。 制服は着てるけど、着方はめちゃくちゃで、 髪色も校則なんて最初から眼中にない色。 今日だって、たぶん校舎裏でタバコ吸ってたんだと思う。 それなのに。 「遅」 私の顔を見るなり、それだけ言って、立ち上がりもしない。 『……待ってたの?』 そう聞くと、拓弥は 当たり前みたいな顔で言う。 「当たり前だろ」 窓際にある彼の机の上には、 開きもしなかった教科書と、 飲みかけの紙パックのジュース。 委員会が終わるまでの時間、 きっとこの教室で、何もしないまま待ってた。 「一緒に帰る約束だろ」 その言葉を聞くたびに、 胸の奥が、少しだけきゅっとなる。 小学生の頃、 ランドセルを背負って歩いた帰り道。 『たくや、先に帰らないでよ』 『ずっと一緒に帰ろうね』 それだけの、子どもみたいな約束。 そんな約束、もう普通なら無効なのに。 先生との約束は破るし、 校則なんて守ったことないし、 呼び出しも反省文も日常なのに。 私との約束だけは、一度も破らない。 「……タバコ、やめなよ」 小さく言うと、拓弥は鼻で笑った。 「それとこれは別」 「なにが」 「約束」 そう言って、先に教室を出る。 廊下を歩く背中は、 相変わらず問題児そのもので、 誰かに見られたらまた怒られるんだろう。 でも、その少し後ろを歩く私の歩幅に、 ちゃんと合わせてくれている。 校門を出て、夕方の風に当たる。 「明日も委員会?」 「うん」 「早く終わらせろよ」 即答だった。 理由も、条件も、駆け引きもない。 世間のルールは全部無視するくせに、 私との約束だけは、 ずっと律儀に守り続ける。 ——それは普通なのか それとも特別なのか。 夕焼けの中を並んで歩きながら、私は何も言えなくなって、ただその隣にいる。 問題児で、 不器用で、 どうしようもない幼馴染。 でも、 一緒に帰る約束だけは守る男。 それが、 私の知ってる草川拓弥。 #超特急で妄想 #フィクションです2026/01/10に公開22,100 回視聴 7.22%1,37310新年会の店内は、もう収拾がつかないくらい騒がしかった。 笑い声と拍手と、どこかで倒れたグラスの音。 その中心で、案の定、先輩が完全に出来上がっていた。 「も〜無理ですって!」 誰かが言っても聞かない先輩を、後ろからがっちり押さえ込みながら、 草川は困ったように、でもどこか楽しそうに笑っていた。 「新年早々、元気すぎなんですよ」 冗談みたいに言いながら、腕の力は一切緩めない。 そのまま一瞬だけ、振り返る。 周りには聞こえないくらいの声で、 でも確実に私にだけ届く距離で。 「ちょっと先輩送ってくるから、先に家帰ってて」 笑顔のままなのに、目だけが真剣で、 それだけで言葉の続きを全部理解してしまう。 『……わかった』 小さく頷くと、草川はそれを確認しただけで、もう前を向いていた。 「すみませーん、俺ちょっと行ってきます!」 場を仕切る声はいつも通りで、 誰もそこに、特別な約束があったなんて気づかない。 店を出て、夜風に当たった瞬間、 ポケットの中でスマホが震えた。 〈先に帰って。着いたら連絡して〉 たったそれだけの文なのに、 さっきの笑顔と、低い声と、 私の前に立った背中が一気に蘇る。 画面を見つめながら、 誰にも見えないところで、そっと息を吐いた。 ——秘密でいい。 今は、この距離がちょうどいい。 そう思いながら、私は駅へ向かって歩き出した。 #超特急で妄想 #フィクションです2026/01/09に公開15,700 回視聴 7.39%1,01916 部活終わりのグラウンドは、 夕方の匂いがしていた。 白い野球のユニフォームを脱ぎながら、 政裕は一人、ベンチに腰を下ろす。 今日は、やけに頭の中がうるさい。 (あの人に好きだと……言うべきか) (でも、今じゃない気もする) 何度も繰り返した思考。 直弥に聞こうとして、やめた。 中学の頃から、この話は散々してきた。 「またその話?」 って顔をされるのが、目に見えている。 「はぁ……」 大きく息を吐いた、そのとき。 「お疲れさま」 聞き覚えのある声。 顔を上げると、ダンス部の練習帰りらしい〇〇さんのお友達が、タオルを肩にかけて立っていた。 「……あ」 「政裕くんだよね?」 「はい」 少し驚きながらも、 立ち上がる。 「部活、終わり?」 「うん」 「野球部、頑張ってるね」 「ダンス部も」 「だよね」 一瞬、沈黙。 でも、不思議と気まずくはなかった。 「……なんかさ」 美咲が、ふいに言った。 「悩んでる顔してない?」 政裕は、少しだけ視線を逸らす。 「……分かります?」 「分かる分かる」 「恋でしょ」 即答だった。 「……はい」 「〇〇のこと?」 驚いて、目を見開く。 「なんで……」 「いやー、さすがにあの勢いで 入学早々クラスに来たら分かるって」 美咲先輩は、当たり前みたいに笑った。 「それに、顔に書いてある」 政裕は、観念したように息を吐いた。 「……告白しようか、迷ってて」 「おお」 「でも」 「〇〇さん、年上だし」 「俺はあくまでも弟みたいに扱われてるし」 「今、言っていいのか分からなくて」 言葉が、止まらなくなる。 「告白されたら」 「〇〇さん、困らないかなって」 美咲は、黙って聞いていた。 茶化さない。遮らない。 そして、ゆっくり口を開く。 「政裕くんさ」 「優しいね」 「え?」 「自分の気持ちより、〇〇のこと先に考えてる」 政裕は、小さく笑った。 「……好きなんで」 その言葉は、驚くほどまっすぐだった。 美咲の胸が、少しだけきゅっとなる。 「ね」 美咲は、一歩前に出る。 「答え、出てると思うよ」 「え」 「〇〇が、迷惑だとか考えずさ」 「素直な気持ち伝えてみたら?」 政裕は、黙って頷く。 「それに、、」 「政裕くんは、〇〇が好きって告白されて」 「迷惑だと思うような人だと思う?」 そして、 美咲先輩は、立ち上がった 「……ちょっと待ってて」 スマホを置き、靴を脱ぐ。 「え?」 「私なりの、エール」 夕暮れのグラウンド。 音楽はない。 でも。 美咲先輩は、 静かに、そして力強く踊り出した。 迷いのない動き。 息づかい。 感情が、そのまま身体にのっている。 目を離せなかった。 (……すごい) 踊り終えた美咲は、 少し息を切らしながら笑った。 「応援」 「言葉より、こっちの方が伝わるでしょ」 政裕の胸が、熱くなる。 「……ありがとうございます」 「元気出た?」 「めちゃくちゃ」 「それなら良かった」 その顔を見て、美咲は思った。 (この子、素敵だな) 真っ直ぐで。 嘘がなくて。 人の気持ちを大事にできる。 『この人は、誰かを幸せにする人だ』 そんな予感が、胸に残った。 「俺」 政裕が言う。 「野球、引退したら」 「ダンス、やってみたいです」 美咲は、目を丸くしてから、大きく笑った。 「いいじゃん!」 「絶対向いてる!」 「ほんと?」 「ほんと!」 夕焼けの中で、二人は並んで立っていた。 恋の答えは、まだ出ていない。 でも。 政裕の背中は、確かに、前を向いていた。 そして美咲の胸には、 小さな灯りが、静かにともっていた。 . . . . . #超特急で妄想 #フィクションです2026/01/07に公開9,340 回視聴 7.68%63121 兄の拓弥が一人暮らしを始めたと聞いたとき、 もっと殺風景な部屋を想像していた。 でも、実際に来てみると、 意外と生活感がある。 『……ちゃんとしてるじゃん』 「何だよ、その言い方」 靴を脱ぎながら、拓弥が言う。 「一応、一人で暮らしてんだからな」 直弥が、部屋を見回して笑う。 「兄ちゃんっぽい」 「どこが」 「割と物がないとこ」 「褒めてるのか、それ」 ワンルームの部屋。 ベッドと机と、小さなテーブル。 サッカー雑誌と、ゲーム機。 『高校のときより、ちょっと大人だね』 「気のせい」 そう言いながらも、 拓弥は少し照れたように視線を逸らした。 ピンポーン。 チャイムが鳴る。 「来た」 ドアを開けると、 ラフな服装の彼が立っていた。 「お邪魔しまーす」 「どうぞ」 『船津先輩』 「久しぶり」 学部は違うけど、 三人とも同じ大学に進学したらしい。 仲良しすぎる。 「海くんは?」 直弥が聞く。 「今日は、忙しいって」 その言葉に、 胸の奥が少しだけ揺れた。 『……そっか』 残念。 でも、 ほんの少し、ほっとした自分もいる。 その気持ちに、名前はつけられない。 「なんだその顔」 稜雅が、にやっとする。 『別に』 「分かりやすい」 拓弥が、話を切る。 「飯、食う?」 「作ったの?」 直弥が目を輝かせる。 「まさか。買った」 即答。 「ちゃんと選んだから」 テーブルに並べられた惣菜は、 どれも無難で、拓弥らしい。 「直弥も高校か」 稜雅が言う。 「うん」 「どう?」 「なんか毎日……人多い」 「それな」 拓弥が笑う。 「入学初日、俺もそれ言ってた」 「覚えてる」 稜雅が吹き出す。 「拓弥、教室入った瞬間固まってたよなw」 「うるさい」 「サッカー部の空気、怖かったし」 「いや、楽しかっただろ」 そんな会話を聞きながら、 私は少し懐かしくなる。 『私たちも、そんな感じだったなぁ』 「だったな」 稜雅が頷く。 「今思い出すと、くだらないことで笑ってた」 「ほんとそれ」 拓弥も笑う。 「昼休みに変な噂立てられてさ」 「妹の話題でキレてたよな」 稜雅が言う。 『……わたし?』 「今だから言うわ」 部屋に、笑い声が広がる。 高校時代の話。 どうでもいいこと。 でも、どれも確かに大事な時間だった。 『……不思議』 「何が」 『こうしてると、あの頃と変わらない』 稜雅が、少しだけ真面目な顔で言う。 その言葉に、静かに頷く。 海はいない。 その不在は、少しだけ大きい。 でも、今ここにある空気も、 確かに大切だった。 『また来てもいい?』 「当たり前だろ」 拓弥が言う。 「ここ、家なんだから」 『実家みたいに言うじゃんw』 直弥が笑う。 「でも、落ち着く」 その一言で、全部が伝わった気がした。 . . . . . #超特急で妄想 #フィクションです2026/01/07に公開13,400 回視聴 6.63%79215放課後の教室は、 三年生特有のゆるさが漂っていた。 窓から入る風が、 カーテンをゆっくり揺らす。 美咲は椅子を逆向きにして座り、 机に顎を乗せた。 「ねえ」 小百合が、ノートを閉じて顔を上げる。 「なに?」 「〇〇の周り、男多すぎじゃない?」 小百合は、否定しなかった。 「……多いね」 「でしょ!?」 美咲が勢いよく身を乗り出す。 「意味わかんなくない?しかもイケメンばっか」 「お兄ちゃんも弟もイケメン」 「その親友の海先輩もイケメン」 「船津先輩も普通にかっこいい」 「幼馴染の優秀くんも、あれやばいよ」 「で、年下にあの政裕」 「何この布陣」 小百合が、静かに補足する。 「しかも全員、性格悪くない」 「そこ!」 「顔だけならまだしも」 「優しいとか真面目とか、ずるい」 二人で、同時にため息をつく。 「なのにさ」 美咲が声を落とす。 「〇〇、彼氏作らないじゃん」 「作ろうと思えば、すぐできるのに」 小百合は、少し考えてから言った。 「無理に作る人じゃないよね、〇〇は」 「それは分かる」 「でも」 美咲は、机に頬をつける。 「幸せになる練習、してもよくない?」 小百合が、ゆっくり頷く。 「うん」 「〇〇がさ、将来誰かに雑に扱われるの、私は見たく無い」 「わたしもだよ」 少し沈黙。 遠くから、 サッカー部の掛け声が聞こえる。 美咲が、ぽつりと口を開いた。 「……正直さ」 「海先輩は、どう思う?」 小百合は、すぐに答えなかった。 少し間を置いてから、言う。 「〇〇が、好きだったのは本気だったよね」 「でも」 「幸せになる相手かって言われると、分からない」 「だよね」 美咲が頷く。 「〇〇、ずっと我慢してそうだったし」 「大事にはしてくれたけど」 「対等ではなかった」 「……うん」 「じゃあ、船津先輩は?」 小百合が、静かに考える。 「安心感はある」 「距離感も上手」 「でも、恋って感じは薄い」 「分かる」 「頼れる先輩、止まり」 美咲が、少し身を乗り出す。 「政裕は?」 「年下」 「一直線」 「重い?」 小百合は、首を横に振る。 「重いけど、誠実じゃない?」 「〇〇のこと、ちゃんと一人の人として見てる」 「……それは強い」 「ただ」 「今の〇〇が、年下を選ぶかは別」 「だよね」 美咲が、腕を組む。 「でも、結局さ」 「誰かが〇〇を幸せにする、じゃなくて」 「一緒にいて楽で、安心できて」 「〇〇が、自分で選ぶ人じゃないと恋愛にはならないよなぁ」 「〇〇が、選ぶ人かぁ、、」 美咲が、深く頷く。 「誰かなぁ、、」 そのとき。 教室のドアが、がらっと開いた。 『なに話してるの?』 〇〇の声。 二人は、一瞬で表情を切り替える。 「なんでもなーい」 「進路の話」 『絶対うそ』 美咲が、にっと笑う。 「〇〇」 「一番幸せになりなよ」 『……急に何』 小百合が、柔らかく続ける。 「なんでもなーい」 〇〇は少し不思議そうにしながら、 小さく笑った。 『変なのー(笑)』 放課後の教室には、いつもの空気が戻る。 でも。 〇〇のいないところで交わされたこの会話は、 確かに、親友たちの本音だった。 . . . . . #超特急で妄想 #フィクションです2026/01/06に公開6,548 回視聴 10.34%61513 正直に言うと。 入学初日は、もっと静かに始まると思ってた。 知らない校舎。 知らない教室。 知らない人。 それだけで、十分疲れる。 「直弥、緊張してる?」 隣を歩きながら、 政裕が聞いてくる。 「……ちょっと」 「大丈夫だって」 「高校、楽しそうじゃん」 こいつは昔からそうだ。 前向きで、考えるより先に動く。 中学の頃から、 姉ちゃんのことが好きなのも、俺は知ってる。 隠すつもりもないんだろうけど。 真っ直ぐすぎて、正直びっくりする。 でも。 そんなところが、嫌いになれない。 むしろ 親友として、すごく大事なところだと思ってる。 廊下を歩いていると、 空気が少し違う場所があった。 三年生のフロア。 ざわざわして、やけに、人が多い。 「なんか、すごくない?」 政裕が、首を傾げる。 「先輩多くね?」 そのとき。 政裕が、急に立ち止まった。 「……え」 声が、ひっくり返る。 視線の先。 三年生の教室の前で、 笑って話している人がいた。 姉ちゃんだ。 姉ちゃんと、その友達二人。 「……姉ちゃん」 思わず呟く。 政裕は、もう完全に固まっていた。 「〇〇さん……」 声、裏返ってる。 俺は気づいてしまった。 周りの視線。 明らかに、姉ちゃんたちに集まってる。 先輩も。 同級生も。 知らない人も。 「ねえ、あの人たち三年?」 「可愛くない?」 と、姉ちゃんたちを噂している。 そして、俺にも 「〇〇ちゃんの弟だよな?」 「拓弥先輩の弟だよね?」 「なあ、仲良くしようぜ!」 ……もう無理。 入学初日だぞ。 俺はまだ、クラスも完全に把握してない。 なのに。 「〇〇の弟!」 「拓弥の弟!」 自分の名前より先に、兄姉の名前ばかり。 正直、めちゃくちゃ疲れた。 「……人気すぎだろ」 小さく呟く。 その瞬間。 政裕が、俺の腕を掴んだ。 「直弥!」 「なに」 「〇〇さん!」 「……だろうな」 次の瞬間、政裕は走り出した。 「ちょ、待て!」 完全に聞こえてない。 三年の教室へ、一直線。 「……はあ」 頭を抱える。 でも、 政裕の背中を見ながら、思ってしまった。 やっぱり姉ちゃんのこと、 本気で好きなんだなって。 真っ直ぐすぎて、 周りが見えなくなるところも。 姉ちゃんのことを、 ちゃんと一人の人として 大事にしてるところも。 それを知ってるから、俺は政裕を止めきれない。 教室の中から、 姉ちゃんの声が聞こえる。 『……政裕』 怒ってるようで、怒ってない声。 その感じに、少しだけ安心した。 「……はあ(ため息)」 俺の高校生活は、たぶん、静かじゃない。 初日から、確信した。 姉ちゃんは、この学校で、 めちゃくちゃ人気者らしい。 正確には。 姉ちゃんと、その友達二人。 そして その弟の俺は、 たぶん、しばらく振り回される。 「……まじで疲れた」 そう呟きながら、 俺は新しい教室へ向かった。 . . . . . #超特急で妄想 #フィクションです2026/01/04に公開16,200 回視聴 5.79%81921校門の前に立つと、 去年とは少し違う景色に見えた。 制服の袖に、 ちゃんと「三年生」の重みがある。 『……三年生か』 隣で、美咲が大きく伸びをする。 「早すぎない?」 「気づいたら一番上だよ」 小百合が、穏やかに笑った。 「一年生、初々しいね」 三人で並んで歩くこの感じは、 もうすっかり当たり前になっていた。 今年も無事に同じクラス、 部活は、それぞれ。 それでも、気づけば集まる。 親友、という言葉が、 一番しっくりくる関係。 「ねえ〇〇」 美咲が、少し声を落とす。 「今日さ、弟くん入学でしょ?」 『うん』 「どんな感じ?」 『……あー、直弥はねぇ お兄ちゃんと違って素直だよ』 「それ一番可愛い」 小百合が、くすっと笑う。 「楽しみだね」 そのとき。 廊下の向こうが、少しざわついた。 一年生の集団が、列になって歩いている。 私も、自然と目を向けた。 その中に、見覚えのある後ろ姿を発見。 『あ、直弥』 少し大きくなった背中。 でも、歩き方は昔のまま。 隣に、もう一人、見知った顔。 『……政裕?』 直弥と並んで歩きながら、 何か話していた政裕が、ふと顔を上げた。 そして 目が合う。 次の瞬間。 「……っ!」 分かりやすすぎる反応。 政裕が、直弥の腕を掴んだ。 「直弥!」 「なに!!」 「〇〇さん!」 直弥が、こっち方向を見る。 「……あ、姉ちゃん」 『……見つかった』 政裕は、もう止まらなかった。 「行ってくる!」 「え、ちょ、政裕!?」 直弥の声を置き去りにして、政裕は走り出す。 「え、なに」 美咲が目を見開く。 「まさかの突撃型?」 「勢いがすごいね」 小百合が冷静に言う。 そして。 三年の教室の扉が、勢いよく開いた。 「失礼します!」 クラスの空気が、一瞬で止まる。 担任が、目を瞬かせた。 「新入生……どうした?」 「一年の、森次政裕です!」 その名前に、胸が小さく跳ねる。 『……政裕』 政裕の視線は、一直線。 「〇〇さん!」 教室中の視線が、一斉にこちらに集まる。 美咲が、私の腕を掴む。 「え、なに!?」 小百合が、静かに言う。 「目が、〇〇しか見えてない」 『……ちょっと、政裕』 立ち上がる。 「はい!」 返事だけは完璧。 『初日から、ここ来ちゃだめ』 「……ですよね」 しょんぼりするけど、目は輝いたまま。 「でも、会えて嬉しいです」 『……もう』 担任が、軽く咳払いをする。 「森次、教室に戻りなさい」 「はい!」 政裕は、深く頭を下げてから、私を見る。 「また、話しかけます!」 『来なくていい!』 立派な「失礼しました!!」とお辞儀を残して 廊下に消える背中。 教室が、一気にざわついた。 「なにあれ!」 「面白すぎない?」 美咲が、完全にテンションが上がっている。 「年下男子!」 小百合が、少し困ったように笑った。 「一途だね」 『……中学のときから、あれだから』 「すごい気合いだったね」 『野球部だから』 「いやいや、そうゆうことじゃないってw」 三人で顔を見合わせて、思わず笑ってしまう。 窓の外を見ると、 直弥が政裕に何か言いながら、苦笑していた。 新しい春。 新しい一年生。 そして、また新しい人との出会い。 『……今年も、忙しくなりそう』 美咲が、にやっと笑う。 「だね?」 小百合が、頷いた。 「楽しみだね」 私は、肩をすくめる。 『……まあね』 三年生の春は、こうして動き始めた。 #超特急で妄想 #フィクションです2026/01/04に公開9,388 回視聴 8.36%67838机の配置はそのままなのに、 空気だけが違う。 笑い声が多くて、 でもどこか落ち着かない。 今日は、3年生の卒業式。 私は体育館の後方に立って、壇上を見上げる。 名前を呼ばれて、 一人ずつ前に出ていく先輩たち。 その中に、よく知っている背中がある。 お兄ちゃん。 姿勢が良くて、相変わらず無駄な動きがない。 名前を呼ばれた瞬間だけ、 ほんの少しだけ、 肩が緊張したのが分かった。 『……卒業、かぁ』 当たり前なのに、実感が追いつかない。 式が終わって、校庭に出る。 校庭の空気は、少しだけやわらいでいた。 冬の終わりと、春の始まりが、 同時にそこにある感じ。 先輩たちは、それぞれの輪の中で笑っていて、 でもどこか、名残惜しそうでもあった。 私は、少し深呼吸をしてから、 サッカー部の輪に近づく。 最初に目に入ったのは、 やっぱり、海くんだった。 『海くん』 声をかけると、 いつもの優しい表情で振り向く。 「〇〇」 それだけで、胸が少しだけきゅっとする。 でも、もう大丈夫だった。 『今まで、ありがとうございました』 「急にどうした」 『サッカー部でも、マネージャーとしても』 『たくさん教えてもらいました』 少しだけ、頭を下げる。 海くんは、一瞬驚いた顔をして、 それから、いつもより優しく笑った。 「こちらこそ」 「本当に助けられたよ」 「ありがとう」 その言葉を聞いて、胸の奥にあったものが、 静かにほどけていく。 『……卒業、おめでとうございます』 「ありがとう」 それだけで、 ちゃんと、さよならができた気がした。 次に、船津先輩のところへ向かう。 「お、来た」 『船津せーんぱいっ』 「もう“先輩”も今日までだな」 『ですね』 「なんか寂しいな」 『……ほんとですか?』 「疑うなよ」 自然に、笑える。 『大学、行くんですよね』 「行く行く」 『じゃあ』 少し間を置いてから、にやっと笑う。 『ちゃんと、三次元の彼女作ってくださいね』 「おい」 「最後にそれ言う?」 『約束です』 稜雅が、声を出して笑った。 「はいはい」 「努力はするわ」 『期待してます』 「余計なお世話」 でも、どこか嬉しそうだった。 最後に、 お兄ちゃんのところへ行く。 少し離れた場所に、一人で立っている。 『お兄ちゃん』 振り返る。 「……なんだ、〇〇か」 『卒業、おめでとう』 それだけ言う。 お兄ちゃんは、一瞬だけ黙ってから、 小さく頷いた。 「……ありがとな」 それ以上、言葉はいらなかった。 他にも、たくさんの先輩たちに声をかける。 「ありがとう」 「頑張れよ」 「元気でな」 みんな、それぞれの春へ向かっていく。 校門の外へ消えていく背中を見送りながら、 私は思った。 『ちゃんと、全部見送れた』 少し寂しい。 でも、前を向ける。 ——そして、時は流れ 一年後。 校庭の桜が、また咲いた。 私は、三年生になっていた。 新しい制服に袖を通した一年生たちが、 少し不安そうに校内を歩いている。 『……懐かしいな』 あの頃の自分を、少しだけ思い出す。 でも今は、ちゃんと先輩になった。 見送られる側から、 今年は、見送る側へ。 春が、また始まる。 . . . . . #超特急で妄想 #フィクションです2026/01/04に公開6,615 回視聴 10.01%6049 全国大会を終え数日。 また、当たり前の日常が戻ってきた。 校門を出たところで、少しだけ立ち止まる。 冬の気配が、もうはっきりしている。 夕方の空気は冷たくて、 息を吸うと胸の奥まで澄んでいく。 『……あ』 少し前を歩いていた背中が、振り返った。 「お、〇〇」 『船津先輩』 思いがけず声をかけられて、少しだけ驚く。 「いま、帰り?」 『はい』 「俺も」 自然と並んで歩く流れになる。 沈黙。 気まずいわけじゃない。 でも、何から話そうか迷う間。 『……』 私の方から、口を開いた。 『船津先輩って』 「ん?」 『どうして、お兄ちゃんと仲良くなったんですか?』 一瞬、稜雅が足を止める。 それから、吹き出した。 「初手それ?」 『すみません』 「いや、いいけど」 また歩き出す。 「高校入ったとき、席が隣だったんだよ」 『なるほど。でもそれだけ?』 「いや、、」 稜雅は、少し思い出すように言う。 「最初、拓弥ってサッカーの話しかしない人だと思ってた」 『……はい』 「でもさ」 「俺がゲームしてたら、急に食いついたんだよ」 『え』 「『それ、どんなやつ』って」 稜雅が、思い出し笑う。 「サッカー以外の話で、普通に盛り上がれたのが嬉しかったんだと思う」 『お兄ちゃんが?』 「うん」 「拓弥、意外と負けず嫌いだから」 「勝てないとムキになるし、勝つとめっちゃ得意げで(笑)」 『……想像できます』 「だろ?」 「気づいたら、放課後も『今日やる?』って誘ってきて」 『あのお兄ちゃんから?』 「そう」 稜雅は肩をすくめる。 「サッカー以外でも楽しい時間があるって分かったのが、大きかったんじゃない?」 『……なるほど』 「海とはサッカーで繋がってるけど」 「俺とはゲーム」 「それだけだよ」 『シンプルですね』 「人間関係って、だいたいそんなもんだろ」 少し歩いてから、私は続けた。 『じゃあ、船津先輩の趣味って、ゲーム以外にもあるんですか?』 「あるある」 『なに』 「昼寝」 『それ趣味ですか』 「立派な趣味」 『……』 「あとアニメ」 『それは意外じゃないです』 「だよな」 自然と、笑っていた。 『……あの』 「ん?」 『船津先輩って、好きな人いるんですか?』 自分で言って、少し驚く。 稜雅が足を止める。 「おいおい」 『聞いちゃいました』 「攻めるなー(笑)」 でも、ちゃんと答えてくれる。 「今はいない」 『そうなんですね』 「〇〇は?」 『……え』 「聞かれると思ってたでしょ」 『……はい』 稜雅が、少しだけ柔らかく笑う。 「まだ整理中って感じか」 『……察し良いですね』 「毎日、拓弥で鍛えられてるからな」 少し歩いて、分かれ道に差しかかる。 『……あ』 自分でも、 もう一つ聞きたいことがあるのが分かった。 『船津先輩』 「ん?」 『進路、もう決めてるんですか?』 稜雅は、少しだけ考える。 「まあ、だいたい」 『大学?』 「そう」 『ゲーム系とか?』 「うん」 「作る側に行けたらいいなって思ってる」 さらっと言うけど、 その言葉には迷いがない。 『すごいですね』 「別に」 「好きなこと、続けたいだけ」 『……お兄ちゃんの勉強のお世話も よろしくお願いします』 「たしかになー(笑)」 稜雅は笑う。 「でもさ」 「拓弥は拓弥で、ちゃんと自分の道行くから」 『……はい』 「〇〇は?」 不意に、聞き返される。 『私は……まだ』 正直に答えた。 「それでいいんじゃない」 軽い声。 「今は、ちゃんと悩めばいい時期だろ」 その言い方が、 やけに自然で、押しつけがましくない。 『……船津先輩って』 「ん?」 『本当に、話しやすいですね』 稜雅が、少し照れたように笑う。 「今さら気づいた?」 『はい』 分かれ道に立つ。 「じゃ、俺こっち」 『はい』 「またな」 『お疲れさまでした』 一歩、歩き出してから、稜雅が振り返る。 「高校生活、まだ続くからさ」 「焦らなくていい」 『……はい』 手を軽く振って、 先輩は自分の道へ進んでいった。 一人になって、少しだけ立ち止まる。 船津先輩は、 今の私にちょうどいい距離で、 ちゃんと前を見せてくれる人だった。 先輩の中で、一番話しやすい。 人気の理由が、 やっと分かった気がした。 . . . . . #超特急で妄想 #フィクションです2026/01/04に公開5,640 回視聴 12.48%62918「……マジか。もう行っちゃった?」 タクヤがスマホを見ながら呟いたその声は、 思ったよりもずっと低くて静かだった。 『うん、終電……逃しちゃったみたい』 心の中では思ってた。 ――このままじゃ、きっと進めない。 だから、正直わざと逃した終電。 「ま、タクシーあるし。送るよ」 ほら、またそうやって、、。 『わたし今日は大丈夫。漫画喫茶とか、24時間のカフェとかもあるし。 だから、帰らない』 「……は?」 タクヤがこちらを見た。 ほんの一瞬、目の奥が揺れて、すぐに視線を外される。 「……あー、そうかよ。そういう感じかよ」 その言い方が、ほんの少し拗ねてて、 でもどこかで、覚悟を決めようとしてる音がした。 (違うなら、ちゃんと帰してほしい。 でも、もしほんの少しでも気持ちがあるなら――) タクヤは少し乱暴にポケットから鍵を取り出して、すごく小さくて低い声で言った。 「……じゃあ、うち来れば」 『……え?』 「ああ!もう!! うちに来いって、言ってんの」 そう言ったタクヤは、口を真一文字に結んで、 必死で冷静を装ってるのが丸わかりだった。 『……それって……』 「……そういうことだよ。 そうゆうことなんだろ?」 短く言ってから、ふいに立ち止まって、〇〇を見た。 「……来るなら、あとから後悔すんなよ?」 ずっと張ってたクールな皮が剥がれて、 奥の感情が、その目に溢れていた。 寂しさ、不器用さ、欲しさ。 いろんな想いを抱え込んだまま、 それでもやっと口にした、本気の一言。 『うん、後悔しない。……わたしも、来たかったんだよ』 その瞬間、タクヤの肩の力が、すこし抜けた気がした。 . . . . . #超特急で妄想 #フィクションです2025/11/15に公開13,900 回視聴 5.65%65810おはよう、こんにちは、こんばんは。 お話の更新ではなく、申し訳ありません。 たくさんの方に見て頂いていることへの、感謝をお伝えしたく、再び投稿にまで図々しく現れてまいりました、主です。 初めての主投稿では、ぐりーんとゆう名前は、愛着は薄めだと言いましたが、たくさんの方に呼んで頂き、とても愛くるしい名前になりました!でも、主さんと呼んでいただくことが多いので『主』でも『ぐりーん』でも『あいつ』でも好きに呼んでやってください(笑) 私の、非常に壮大な妄想をたくさんの方に見て頂けてなんか、恥ずかしいような、申し訳ないようなでも、やっぱり、いろんな反応がいただけてとても嬉しい毎日です。 投稿数も600本に迫ってきました! 特に『ONE』は多くの方に見て頂き、フォローやコメント頂くきっかけになっています。 本当に、みなさまいつもありがとうございます。 嘘でもお世辞でもなく、コメントくださる方がいるから、ちょっと続けてみようかなもう1話書こうかな、、と励みになってます! 相互様限定のお話も、不定期ですが更新ができています。コメントしてくださる、そこのあなたがいるおかげです。 相変わらず、非常に末期の草川拓弥推し、おひたし8号車です! どこにでもいるオタクです。 超特急で、念願のMステが決まり 感極まり、気を抜けば号泣の今日この頃。 超特急、草川拓弥が私の生きる希望であり、栄養です。 この妄想アカウントをフォローしてくださっている方の中にも、リアルの推し活で繋がってる方ちらほらと、いまだにいます(笑) もしかしたら、私は、あなたの友達かもしれません(笑) 私も、限界社会人をしていますので、更新頻度には、ばらつきがあるかもしれませんが、長編、短編、オムニバス形式と、私の気の向くままに、今後も投稿をしていきたいと思っておりますので、暖かく見守ってくだされば幸いです。 みなさん、飽きずによろしくお願いしますね なかなかコメントへの、お返事できず♡のみの反応になりごめんなさい。 こちらの投稿へのコメントには、必ずお返事させて頂きたいなと思っています。 では、みなさまとお話しできますように🌷 2025/10/18に公開55,100 回視聴 1.5%571211×インフルエンサーコンテンツCSVダウンロードフォロワー総数、フォロワー増減数、エンゲージメント数、エンゲージメント率ダウンロード※ データには投稿ID, 投稿URL, 説明文, 再生数の他、LIKE数, コメント数, シェア数, 動画尺, 公開日が含まれます。 コンテンツをCSVでダウンロード